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インタビュー:curry-lab 泉井秀介

幼少期からのカレー好きが高じて、学生の頃からクラブなどでカレーのイベントを開催するなど、カレーとスパイスを軸に個性的な活動をしてきた泉井秀介さん。現在では歯科医師として働き、スパイスの研究をしながら、独自に開発したミックススパイスを商品化するなど、精力的なスパイスの普及活動に勤しんでいます。FANTASTIC MARKETでも常連の泉井さんに、カレー愛に満ちたお話を伺いました。

泉井さんのcurry-labとしての活動やスパイスのことなどについて、聞かせていただきたいと思っています。泉井さんはスパイス研究家として活動されていますが、ご職業は歯科医師でしたよね。
今は歯科医師として臨床に携わる一方で、大学で歯周病予防素材としてのスパイスの機能について研究をしています。例えば、カレーに含まれるターメリックの成分であるクルクミンは抗菌作用や抗炎症作用など様々な役割を持つことが明らかになってきているんですよ。

スパイスと出会ったのは、大学で研究を始められてからですか。
いえ、それよりもずっと前です。今はスパイス研究家として活動していますが、以前はカレー研究家という立場でした。研究というか、活動というか、本当に単なるカレー好きだったんですけど。

その当時はどんなことをしていたのですか。
今から10年以上前の話ですが、関西中のカレー屋さんをひたすら食べ歩いたり(笑)。ピーク時は3年間で1000軒くらい!あとは理想の味を求めてカレーを自分でつくったり、カレー好きを集めてカレーイベントを開いたりといった感じですね。当時、僕は個人でブラジル音楽のレコードを輸入して販売するという仕事をしていたのですが、自分の好きだったカレーと音楽を合わせたイベントをやったら面白いんじゃないかと思ってイベントをやりはじめたことがcurry-labの活動のきっかけだったように思います。文化系カレーイベントの走りみたいなもんです(笑)。そのイベントに京阪神エルマガジン社の方が遊びに来てくれたことがきっかけで「音楽とカレー」をテーマにした連載記事を雑誌『Lmagazine』に書かせていただいたりもしていました。

音楽とカレー(笑)。普通のようで普通ではないような。
カレー屋さんにはわりと音楽好きな方が多いんですよ。音楽とカレーの共通点を探していくといった記事を書いていました。店主に個性的な人が多すぎて苦労した面もありましたが、とても楽しい経験でした(笑)。

おもしろいですね。共通点はどんなところにありましたか。
いろいろと考えは巡り巡ったんですが、けっきょく何だかよくわかりませんでした(笑)

でもそう考えるのは、わからないでもないです。音楽に於ける音の構成要素だったり、カレーのスパイスなどのブレンドとか。周波数とか味覚に何か関係があるんですかね。そんなものはないか。
音楽をやっている人がつくるカレーというものは、ある種独特です。例えば、味を高音、中音、低音、と分けて捉えていたり、今日のカレーは高音が足りないとか、中音の膨らみがないだとか、そういう感覚的なイメージで捉える方が多いですね。

素材をミックスするということが共通しているんですかね。ところで、現在の歯科医師というご職業が少し意外な気もするのですが。
医療関係には元々興味があったんです。レコードの仕事が落ち着いてきたころに大学に入り直すことにして今の大学の歯学部を受験しました。もし受験に落ちたら友だちとカレー屋をやるつもりだったんです(笑)。

歯科の分野とスパイスの研究はどのようにつながっていったんですか。
大学3年生くらいの時だったと思うんですけど、研究室に配属されて行う実習で僕は細菌学教室に配属されて、そこでしばらく研究をすることになったんです。はじめは普通に細菌の研究をしていたのですが、当時の上官の先生が偶然、僕が出演しているテレビ番組を見てスパイスの研究を勧めてくれたんです。

テレビにご出演もされていたんですね。
カレーに関することでテレビに出ることはちょくちょくあったのですが、大学では公言していませんでした。それで、偶然そのテレビ番組を見てくれていた先生から「ターメリックに抗菌作用があるということは民間伝承として知られているけれど、それを科学的に証明している論文はほとんどないから、そういう研究をやってみたらおもしろいんじゃないのか」と言ってくれたんです。そんな経緯で、虫歯菌とターメリックの関係について調べはじめたことがスパイス研究のスタートです。実際の話、ターメリックは虫歯菌の成長を抑制する効果があるんですよ。

へー。スパイスっていろんな効能があると聞きますが、よく知りませんでした。
スパイスはおいしいだけではなく機能性食品としての側面もあります。ターメリックはもちろん、クローブやカルダモン、ナツメグなどなど、それぞれのスパイスに個性的な効能があると考えられています。

おいしいくて機能性食品でもあるって、薬草みたいですね。
スパイスには、ウコンの名でも知られるターメリックをはじめ、漢方と共通するもの多いですし、いわば食べる生薬みたいな一面もあります。スパイスは食材の臭い消しや、防腐を目的として、気温が高くて衛生環境がそれほど良くない地域で使い方が発展してきたのも納得できる話です。

種類が多くてたのしそうですが、素人にはどれをどう使ったらいいのか、使い方を覚えきれるのか、ちょっとハードルが高く感じてしまいます。
そうなんです。なので、どうしたらより多くの方に、もっと気軽にスパイスを使っていただけるのかを現在、考えているところです。一般の方にスパイスをポンとお渡しても、なかなか料理に使えないですよね。だから、そういったところが今後の検討課題です。和食に合うスパイスの提案だとか、そういう感じで使ってもらえたらおもしろそうですけどね。

ちなみにFANTASTIC MARKETで販売されているファンタスティックマサラには何がブレンドされているんですか?
クミン、コリアンダー、ターメリック、フェンネルと、他4〜5種類のブレンドにオレンジピールも入れました。オレンジピールは華やかな香りがして爽やかです。いつも明るくて楽しいマーケットをイメージして配合しました。

マサラっていわゆる、ミックススパイスなんですよね。料理にはどのように使うのが一般的なんですか。
主に料理の最後に香り付けとして使うことが多いですが、これひとつあれば、本格的なインドカレーはもちろん、家庭のルーでつくったカレーのインド感をグッとアップさせたり、お鍋や炒め物などにも使うことができます。ただ、スパイスを料理に使うとなると、スパイスをメインにしがちになるんですが、そうではなくて、スパイスもやっぱり、そこに加える素材の味がありきだと思うんです。出汁やお肉などの旨味に対してスパイスが全体を引き締めたり風味を足したりすることが本来の役割です。スパイスは香りがあっても味がないということが多いので、何かメインとなる食材と組み合わせるのがはじめは使いやすいと思います。

今、うちのグラフィックデザイナーの赤井とパッケージデザインを進めているカレーパウダーはcurry-labとしてはじめてリリースするカレー粉なんですか。
昔からよく自分でブレンドしたカレー粉を友だちにつくってあげたりはしていました。お店に置くようになったのは北堀江の「FUTURO Cafe / Antiques」さんでスパイスのイベントを開いたり、南堀江の「ダイヤメゾン」さんにスパイスのプロデュースをお願いされたのがきっかけです。その時つくったスパイスが好評だったので、もっといろんな方に使っていただきたいと思い、商品化をパッケージデザインも含めてgrafさんにお願いしました。

これからの目標みたいなものはありますか。
機能性食品としてのスパイスをより科学的に分析していくこと。それが第一の目標です。あと、純国産のスパイスからできたカレー粉をつくりたいですね。スパイスはほとんどを輸入に頼っていて、品質にも相当なバラつきがあります。やはり安全に食せるものを。また、美味しくてからだにも良いスパイスを一般のご家庭でもどうすれば広く使って頂けるのかを考えていきたいですね。例えば、和食を専門としている人にカレーやスパイスを使った料理をつくってもらったりとかすると、良いヒントが得られそうな気がするんだけれど。。

本当にカレーが好きなんですね。
カレー、飽きないですね。カレー、いいなぁ。

泉井秀介
curry-lab主宰。スパイス研究家。幼少期に大阪・東梅田にある『ピッコロ』のカレーを食べたことで、衝撃を受け、以来1000軒以上のカレーを食べ歩いている。大阪大学歯学部卒業後は同大学院にて、「歯周病細菌に対するターメリックの抗菌作用」をテーマに研究に取り組む。雑誌『Meets Regional』(京阪神エルマガジン社)などにてコラムを執筆。ブラジル音楽と南インド料理をこよなく愛する大阪人。趣味のスパイス調合が高じ、今春にオリジナルのミックススパイスをリリース。